気の向くままに書いてゆこう

Essay

長年、仕事で数多くの文章を書いてきた。けれど、なぜか自分の気持ちや考えを「自分の言葉」で発信することは避けてきたように思う。それがいま、ふと書いてみようという気持ちになった。

仕事でまとめるインタビュー記事は数千字におよぶこともあるけど、原稿作成の作業はちっとも苦にならない。生来、書くことが好きなのだ。納品した原稿の評判がよくて、クライアントの担当者から感謝の言葉を直接かけてもらったりすると、この仕事をやっていてよかったなと思う。

もう20年も前のことだけど、当時勤めていた会社が制作していた旅行誌の企画で、東北6県をめぐる2泊3日のバスツアーに同行取材したことがあった。松島、山寺、中尊寺、奥入瀬渓流、角館などの観光名所をバスでめぐり、ゆく先々でツアーの参加者にインタビューをさせてもらった。

その中で、とりわけ話の盛り上がった夫婦2組のグループがいた。30年来の付き合いになるというご近所仲間でツアーに参加されていて、聞けば年に1度は4人でいろいろなところに旅行しているのだとか。仲睦まじい様子が印象に残った。

ツアー2日目、ちょうど表紙用の撮影をどなたにお願いしようか思案していたぼくは、奥入瀬渓流でTさん夫妻に声をかけた。

「実はいま、表紙に出てくださる方を探しておりまして」

見本誌を見せながら表紙のイメージを伝えて撮影をお願いしたところ、Tさん夫妻は快諾してくれた。その後、近くにいたKさん夫妻も合流して、撮影は無事に終わった。

数日後、Tさん夫妻からハガキが届いた。「本誌を拝見し、ひとこと御礼をと思いペンをとりました」という冒頭の言葉に、胸が熱くなったのを今でもはっきりと覚えている。自分の文章が誰かの心に響き、その結果として感謝の気持ちを伝えてもらえた。この手紙は今でもぼくの宝物になっている。

「文章」は、書き手と読み手を結びつけ、幸せの輪を広げる力があるとぼくは信じている。これから、このエッセイで自由に書きながら、そんな素敵な関係を育んでいきたいと思う。どうぞよろしくお付き合いください。

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